恋愛セミナー50【紅梅】第四十三帖 <紅梅 こうばい>故・柏木の弟は、今は按察使の大納言(あぜちのだいなごん)となっています。 あの玉鬘に言い寄っていたかつての兵部卿宮は亡くなり、 その妻であった髭黒の大臣の娘・真木柱に大納言は長年通い、再婚しました。 大納言と真木柱の間には若君(わかぎみ 息子)が一人生まれています。 大納言には亡くなった正妻の生んだ二人の娘がいて、真木柱が連れてきた兵部卿宮との間に生まれた姫・ 宮の御方(みやのおんかた)と分け隔てなく世話をしています。 大納言は藤原家から再び中宮が出ることを期待して、二人の娘のうち大姫(おおひめ 長女)が東宮を嫁がせるしました。 中の姫(なかのひめ 次女)は匂宮に嫁がせたいと思っています。 宮の御方の結婚についても大納言はほのめかしますが、真木柱は良い縁談がなければ尼にでも、と応えます。 宮の御方の住む東の対に行き、それとなく探ると自分の娘よりも美しくたしなみ深い様子。 大納言は若君を呼び寄せて笛を吹かせ、宮の御方の琴と合奏をさせ、自分は口笛を合わせます。 ちょうど庭に紅梅が見事に咲いていて、大納言は亡き源氏を思い涙ぐみました。 可愛がってもらった源氏に縁の匂宮のために、大納言は梅を一枝折らせて、若君を使いに歌とともに届けさせました。 「風に香る梅の園。まずあなたがここを訪れてくださらなければ。」 香りのある花が贔屓の匂宮は、若君の携えてきた梅をたいそう喜びます。 匂宮は中の君ではなく、宮の御方に興味があるので、大納言の歌には 「花の香りに誘われるのに相応しい私ならすぐにお伺いするのですが。」とおざなりな返事を返しました。 東宮のお気に入りの若君を、匂宮も可愛がっているのでその日は離さずそばに寝かせます。 一晩、匂宮のもとに泊まった若君は、たいそう香ばしい移り香を漂わせながら大納言に返事を渡します。 がっかりしながらも、誘いの歌を贈り続ける大納言。 一方匂宮は、若君を使いにして直接、宮の御方に文を届けますが、なんの音沙汰もありません。 匂宮を婿に相応しいと思いつつ、宇治の八の宮の姫などあちこちに相手のいる多情さに不安も感じる母・真木柱。 熱心な匂宮に無礼にならないよう、娘の代筆をしたりするのでした。 恋愛セミナー49 1 大納言と真木柱 再婚同士 2 匂宮と宮の御方 据え膳よりも 3 匂宮と若君 文使い以上に 父と離れ離れになり、最初の結婚もあまりうまくいかなかった真木柱の再婚後のお話。 連れ子同士がそれぞれの親とどのように対してゆくのか、現代と照らし合わせても興味深いテーマです。 匂宮と若君との関係、どこかでみたような気がしませんか? そう、源氏と空蝉の弟・小君との関係とそっくりです。 美しい男の子を愛人として贔屓にして、その姉への橋渡しにする。 東宮が匂宮に若君を横取りされた、と言っているのを真木柱が笑って大納言に報告するシーンもあるので、 美童を地位ある男性が慈しむのはごく当たり前のこと、出世コースの一過程なのでしょう。 どうやら大納言自身も、源氏に可愛がられていたと思われます。 そしておそらく、亡き柏木も。 そうなると柏木は源氏からの二重の嫉妬に苛まれた可能性もでてきます。 これから何かが起こりそうな予感の「紅梅」の帖ですが、残念ながらここでの登場人物は 以後あまり出てこなくなってしまいます。 匂宮と同じく、この帖が紫式部の修作と言われる由縁。 想像力を豊かにして、あなたの物語を紡ぎ出していただくのもいいかもしれませんね。 |